「広島県農業生産者支援制度」中国新聞社賞を頂きました。

「広島県農業生産者支援制度」は、「より安心できる食と農のある豊かな暮らし」を実現するため、自立的かつ持続的に発展し「安全・安心」「おいしさ」「品質」がさらに高まるよう、「生協ひろしま」が県内の農業生産者を支援している制度。

 

 

 

 

 

 

 

七三農園での具体的な取り組みを、下記の小論文にして応募しました。

この文章は1年前に書いたもので、一部は変更しているものもありますが、より安心で、より美味しく、より持続的で、より楽しい農業を目指すために、これからも頑張っていこうと思います。

 

1.土づくりはどのようにされていますか。

 土づくりは農業を営むうえで、もっとも大切な作業だととらえています。

 健全な土をつくれば、病害になりにくく、気候の変動にも耐えられると考えています。

 こだわりのポイントは以下のとおりです。

 

植物由来の有機物を豊富に取り込むこと

土中菌類相を豊かにすること

原材料の明白な素材を利用すること

可能なかぎり近距離で得られる素材を使うこと

 

①ベースとなる有機物の投入

 当農園の場合、長期間、休耕田だった場所を借りているので、畑への転換に際して効率よく有機物を投入するために、キノコ菌床を利用しています。

 キノコ工場(三原市大和町)から購入するキノコ廃菌床を10aあたり2トン投入。畑の隅々に均し、トラクターで鋤き込む。1カ月間ほど放置し、土中で発酵させる。

 毎年、キノコ菌床を施用し続ける農家もありますが、当農園ではどの畑でもはじめの1回だけの施用に限定しています。

⇒平成25年に4トンを施用し、その後はキノコ廃菌床は不使用です。

 

②畝への堆肥施用

 Phメーターで土壌酸度をチェックし、必要に応じて有機石灰を投入して酸度を調整する。

 畝を作り、鶏糞堆肥を1㎡あたり2~3kgを撒いて、鍬でよく鋤き込む。

 鶏糞堆肥は、三原市高坂町にある坂本農場(私の研修先)から分けていただいています。

 坂本農場では、平飼養鶏で500羽ほど飼育しており、その餌は国産小麦、自家製小米、海藻類、おから、粉砕貝殻、有機野菜クズなど、由来が明らかで安全な素材にこだわっています。その鶏舎の床土は安全で良好な堆肥となっています。

 この堆肥は、現在のところ作付けごとに施用しています。将来的には、自家製の堆肥を利用すべく、野菜の残渣、落ち葉などを積み上げているところです。

⇒平成26年以降は県央部で分けてもらう草木堆肥と自家製落ち葉堆肥を使用しています。

 

2.農薬や肥料に関してどのようにされていますか。また農法ではどのような工夫をされていますか。

 

①農薬について

 害虫の駆除、除草はすべて手作業で行い、いわゆる化学農薬は一切使用しません。

 これまでのところ、野菜に対して壊滅的な被害はありません。

 

 大学卒業以降、20年以上にわたって昆虫類の調査研究に携わってきたため、益虫と害虫の見分けが得意で、害虫のみを手作業で駆除しています。アブラムシが付いたときは、試験的に酢水(食用酢を水で薄めたもの)スプレーを使用したことが1回だけあります。

 野菜の生育初期に、手押しの「除草機」を使って雑草の繁茂を抑制しますが、雑草と言えども完全に駆除することはせず、益虫の棲みかとしてある程度残します。

 また、作付け前に透明ビニールマルチで畝全体を覆い、太陽熱で地温を上げて雑草の発芽を抑制する「太陽熱消毒」を行っています。これにより、雑草の生育がかなり抑えられます。

 

②肥料について

 肥料は、EMぼかし肥料がメインです。化学肥料は一切使用しません。

 肥料成分は少なめに、とくに窒素過多にならないように心がけています。窒素過多は害虫被害をもたらすこと、野菜の硝酸泰窒素の値が高くなることを懸念するためです。

 野菜の生育にはやや時間が掛かりますが、現在のところ何とか作れています。

 EMぼかしは、作付け時は少なめに施用し、生育の様子を見ながら適時、追肥を行います。

 肥料成分が多めに必要なナス、トマト、ピーマンなどの果菜類には、発酵鶏糞(三原市久井町の養鶏所から入手)、卵殻(福山市松永町から入手)も使用します。

⇒平成26年以降は鶏糞は使用せず「ぼかし肥料」と卵殻のみを使用。また発酵資材は「えひめAi」に変更しました。

 

③農法の工夫について

 農法の工夫としては、周囲の環境も含めた生きものの多様性を高めることで、病害虫被害が緩和されるように注意を払っています。

 前職が昆虫類の調査研究、里地里山の生物多様性を保全する仕事だったため、畑や周囲の環境を里山と見立て、全体で生きものの多様性を高める工夫をしています。当園では、広島県の絶滅危惧種であるトノサマガエルの数が多く、相当数の害虫を駆除してくれていると考えています。

 

具体的には、

●畝ごとに作物を変えて作付けし、野菜の多様性を向上する

作物間の距離を多めにとり、風通しを良くする

収穫が終わっても花が咲くまで生育させ、ハチ、アブなどの昆虫類を呼び込む

畦に適量の草を残し、カエルやゴミムシなど生きものの棲みかを作る

水場をつくり、同じく生きものの棲みかを作る

 

 農法ではありませんが、お客様により良い品を届けるため、環境負荷の低減を心がけています。

 

具体的には、

化石燃料由来の二酸化炭素排出の抑制

再生可能エネルギーの導入

野菜残渣の有効利用

 

 農機具、農業用車両の燃料使用量を記録し、化石燃料由来の二酸化炭素の排出を抑えるよう心がけています。無駄なアイドリングを抑える、作業効率を向上させるルート選び、器具のメンテナンスによる燃費向上などに取り組んでいます。

 

 小規模ですが、再生可能エネルギーとして、太陽光発電パネル、蓄電池、LED電球(すべて既製品)を使って室内作業を行っています。また、雨水を貯めて、水遣りや器具の洗浄に利用してます。

 

 発生する野菜くずの一部は、地元の小学校で飼育しているウサギの餌として、また近所で飼育している烏骨鶏(うこっけい)の餌として提供しています。残りは落ち葉と一緒に積み上げて、自家製堆肥を作っています。

⇒平成27年以降、小学校への野菜くずの提供は休止しています。

 

3.飼料や抗生物質・ワクチンに関してどのようされていますか。

該当なし。

 

4.栽培・飼育・加工などの履歴の記録など、トレーサビリティについてはどのようにされていますか。記録されている場合は項目・頻度・管理などについてご記入ください。

 

 毎日、作業予定表を作り、実際の作業内容、使用資材、確認した生きもの、作物の生育状況などを記録しています。

 作業内容はデジタル写真で記録し、ブログで公表することでお客様の安心が得られるよう努力しています。また使用している品種も公開しています。

 

5.農業について抱いている想いをお書きください。

 

 サラリーマンとして20年間働き、残りの人生を有機農業にかけてみようと思って脱サラ・就農しました。安全で安心のできる食物を生産し、お客様とダイレクトにやりとりしながら、価値のあるものを届けるという仕事にやりがいを感じています。

 農業には、暮らしの工夫や農業技術を継ぐ、世代間をつなぐ、生産者(地方)と消費者(都市)をつなぐ、生きものの多様性をつなぐなど、さまざまな役割があると思います。

 

 環境問題、食糧問題、過疎高齢化など、生きにくい時代にあって、農業で生計をたて、田舎で人間らしい生活をすることは、さまざまな世代の人に希望をもたらせるのではないかと思います。

 若い世代には、生き方のひとつの事例として。年配世代には、昔ながらの農業の技術、暮らしの工夫などが現代社会において必要とされていることを誇りに。

 種まきの時期、機械の使い方、人手が必要なときなど、地域のお年寄りの知恵や力を借りることが多いです。こちらも、新しい技術や道具を提供したり、地域行事への参加、力仕事などを手伝います。

 

 農作業をしていると、小さな生きものがたくさん目につきます。これらの生きものが野菜の受粉を助けたり、喰う喰われるの関係により、畑のバランスが取れていることを実感します。水路を作る、雑草を残すなど、小さな工夫により、畑の生きものを増やせることにも気づきます。

 過疎地に新規就農者が増え、休耕地や里山に少しずつ手を入れていけば、生きものの多様性を残すことができるのではないかと思います。

 

 畑で作業をしていると、お年寄りや子どもたちから声をかけられます。また、人や車の出入りもよく見えます。お年寄りからは「何かあったらよろしく頼む」とよく言われますが、日中に農作業をすることは地域の見守りにも貢献できるのではないかと考えています。

以上